標題の「襲来」という小説を読みました。私の好きな帚木蓬生という作家の作品で、鎌倉時代の宗教家、日蓮の生涯を描いたものです。
「襲来」というタイトルは、蒙古襲来、いわゆる元寇のことで、日蓮は「立正安国論」の中でこれを予言し、自ら信頼できる弟子を対馬に派遣して、自らの説の正しさを立証しようとした、という筋立てになっています。
日蓮は鴨川の出身で、文中にも出て来る鴨川市山中の清澄寺には私もツーリングの際立ち寄ったことがあるのですが、ここが若き日の日蓮が修行を積んだお寺だという事はこの小説で初めて知りました。また同じ鴨川市の小湊にある誕生寺は、日蓮の生誕地であることを大々的にアピールしていますから知ってはいましたが、こちらはすごく大きなお寺でいつも参拝客で混雑している印象があって、何度もツーリングで前は通りながらも寄ったことがありませんでした。千葉県では、我が家からも近い市川市の中山寺、松戸市の本土寺が日蓮宗で重要な位置を占める寺院であることも今回初めて知りました。
宗教は危険な領域ですので少しだけ書いてみます。
日蓮は「妙法蓮華経」を絶対の教えとして、他宗派は邪宗として断固排斥するという強い宗教家でしたから、危険思想の持ち主として時の政権(鎌倉幕府)からは常にマークされていましたし、実際に捕らわれて島流しにされたりもしています。
そして日蓮宗とそこから派生した日蓮正宗や創価学会は、「折伏(しゃくぶく)=相手を強く責めたて、打ち砕いて、入信させる」という方法で、邪宗から迷える人々を救う事を重要な宗教活動としています。「摂受(しょうじゅ)=力を用いずに他人の行為や心を受け入れる方法」とは対になる強い活動です。
仏教は何となく平和主義というイメージがあったのですが、よく考えてみるとそんなことはありません。天台宗比叡山延暦寺の山法師(僧兵)は平安時代から既に一大武装勢力であり、最終的に信長に焼き尽くされるまで戦い続けましたし、浄土真宗(一向宗)による一向一揆も信長等の戦国武将と血みどろの戦いを繰り広げていますが、これら戦う仏教はすべて日蓮宗以外の宗派でもあります。
我が家は日蓮宗からは排斥される側だった念仏(南無阿弥陀仏)の浄土真宗でしたが、四国では浄土真宗が多かった(と思います)ので、「だんだん良くなる(鳴る)法華の太鼓」という言葉で、太鼓を打ち鳴らしながら大声で南無妙法蓮華経を唱える日蓮宗の人たちを逆に揶揄するような言い方をよく聞いたものです。
また立正安国論は、太平洋戦争の際に立正報国運動として展開され、結果として戦争拡大に加担することになったという批判も根強くあるようです。私はこの小説を読んだことをきっかけに日蓮宗についてちょっと調べてみただけの素人ですから軽々に判断はできませんが、それが日蓮さんの本意とはやはり思えませんから、さぞかしお怒りなんじゃないでしょうかね。
立正大学という東京五反田にある大学は名前の通り日蓮宗直系の大学ですが、他にも仏教系の大学は沢山あります。
父の葬儀の際に我が家の宗派を調べて、我が家が浄土真宗の中でも西本願寺派であること、そして龍谷大学はそこが運営する大学だということを初めて知ったのですが、今回日本の仏教系大学を紹介する記事を見つけました。それによると、
日蓮宗:立正大学、身延山大学(文教大学、日本福祉大学)
真言宗:高野山大学、種智院大学
浄土宗:佛教大学(京都文教大学、埼玉工業大学、東海学園大学、京都華頂大学、淑徳大学)
浄土真宗西本願寺系:龍谷大学、相愛大学(京都女子大学、武蔵野大学、岐阜聖徳学園大学、兵庫大学、筑紫女学園大学)
浄土真宗東本願寺系:大谷大学、同朋大学(大阪大谷大学、京都光華女子大学、愛知文教大学、札幌大谷大学)
曹洞宗:駒澤大学(愛知学院大学、東北福祉大学、駒沢女子大学、鶴見大学)
臨済宗:花園大学(常葉学園大学)
多宗派:大正大学
最初に記載した大学がいわゆる直系大学で、カッコ内はその宗派の団体が運営している系列大学、という事のようです。
抜け漏れ等あるかも知れませんが、さすがに仏教は我が国における歴史が長いですから沢山ありますし、京都を中心とした関西に多く存在するのも頷けます。
これまで、オシャレなイメージのミッション系大学とは対照的に、仏教系大学は「地味」「野暮ったい」「古い」というイメージを感じさせないために、なるべく仏教色を薄めていたのだそうです。確かに上智、立教、青学、関学、同志社など難関私大にはミッション系が並びます。
しかし最近では、西欧での日本文化人気や東洋文化・思想への関心の高まりを受けてか、仏教系を積極的に打ち出す大学も増えているのだとか。また「ミッション系大学」に対抗して「シャクソン系大学」(釈尊系)という呼び方もあるのだそうで、シャレは効いていますが、ちょっと自虐的でもありますね。