Amazonプライムビデオで役所広司主演の映画「すばらしき世界」を観ました。
佐木隆三が実在の人物をモデルに書いた小説「身分帳」が原作で、モデルの男性は「身分帳」刊行後に死亡しています。ですから「身分帳」は主人公の生前の姿しか書かれておらず、その死については別途「行路病死人」という短編があって、それは「身分帳」の文庫版に収録されています。私はその合併版とでもいうような構成となっている映画を先に観て、その後原作をKindleで購入して読みましたので、それぞれが別建ての作品とは思っておらず、「身分帳」の最終章というかエピローグのようなものとして読んでいました。
役所広司演じる主人公は、見た目は強面でカッと頭に血がのぼりやすい、典型的な反社の人物ですが、実はまっすぐで優しく困っている人を放っておけないような男でもあります。しかし人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯であり、一度社会のレールから外れてしまったアウトローが社会に復帰するのはとても難しい事です。そんな彼が暖かい人たちに支えられながら、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する姿を描いています。
何と言っても役所広司の演技が圧巻で、他の役者がこの役を演じることが想像できない位の存在感です。共演者もそれぞれ良かったのですが、六角精児も酒を呑みながら鉄道に乗っているだけの「呑み鉄」のオッサンかと思っていたら、なかなかいい演技をするんですね。ちょっと見直しました。
この映画は2021年公開ですからもう4年前の作品ですが、第56回シカゴ国際映画祭で観客賞を受賞し、役所広司も最優秀演技賞に輝いているのだそうです。
この映画も先日劇場で観た「国宝」と同じく妻から勧められて観たものです。
国宝は先に原作を読んでいた妻が映画にもかなり期待していて、公開されて間もなくして一緒に観に行ったのですが、この「すばらしき世界」は既に公開は終わっていましたし、妻は映画の方は公開中に劇場で鑑賞済みで、原作も読み終えていましたので、私は今回映画をAmazonプライムビデオで、原作はKindleで後追いすることにしたのです。
映画は、上記の通り役所広司の演技力と存在感で引き込まれましたし、演出も良かったと思うのですが、原作の方は正直淡々と事実を追っている感じで、小説というよりルポルタージュのような印象でした。映画から原作に行くより、原作から映画に入ったほうが良かったような気がします。
国宝の場合も同じように映画を先に観たのですが、今私の手元には妻から借りた吉田修一の原作「国宝」の文庫版上下二巻があって、「すばらしき世界」と同じことにならないかなと若干危惧しています。
紙の本で小説を読むのも久しぶりなのですが、Kindleの中に溜まっている未読の本と違って、リアルな「積読」は本の方から「早く読め!」と言われているような感覚があります。ただこの文庫本はカバーの装丁も素敵で歌舞伎の雰囲気を良く表していますから、読みたいという気は十分にあります。