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永井路子「茜さす」を読みました。

 

周防柳の「小説で読みとく古代史」という作品で、永井路子の「茜さす」という小説の事を知り、Kindle Unlimitedにも入っていましたので、一度読んでみようと思い立ちました。永井路子の名前くらいは知っていましたが、彼女の作品を読むのは初めてです。

 

茜さす(上)

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茜さす(下)

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「小説で読みとく古代史」ですから、紹介されるのは殆どが古代をテーマにした時代小説なのですが、この小説の主人公は1970年代に生きる女子大生です。
彼女は名門女子大の学生として万葉集ゼミに所属しており、卒業論文や就職活動に取り組む中で、額田王や持統天皇の歌から、彼女たちも愛や憎しみ・権力・孤独といった現代(といっても1970年代)にも共通なテーマに思い悩み翻弄されながらも、歴史に痕跡を残してきたことに感銘を受けます。そこから女性としての自分の生き方を再認識するのですが、作中では出版社志望の厳しさや、当時の女子大生の生活感、恋愛観などがリアルに描かれており、私にとっては懐かしい昭和の空気感です。
ただ名門女子大のお嬢様的な雰囲気や、就職活動の「生ぬるさ」などは、現代の若い女性から見るとかなり時代のギャップを感じる部分かもしれません。

 

ただそんな1970年当時の女子大生気質を理解するには、その頃女性たちが置かれていた立場・状況を考える必要があります。
日本で男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年4月1日、この作品が書かれたのは1991年ですが、舞台となるのは1970年代ですから、完全に雇均法前夜の時代です。女性は短大でないと就職できず四大生は敬遠される(高学歴の女性は理屈っぽくて使いにくい)、片親不利(しつけ面が不安)、自宅生優先(遊んでるんじゃないか)、など今の若い女性には信じられないような男女差別が当たり前のようになされていました。 
この時代に生きた女性たちを、ともすれば政争の道具としか見做されなかった古代の女性たちと対比することで、物語に奥行きと普遍性が生まれているのが「茜さす」の魅力のひとつのように思います。

 

「昭和期の名門女子大御三家」という場合、一般的には 日本女子大・東京女子大・津田塾大を指し、作者の永井路子は東京女子大学国語専攻部を卒業して戦後は東京大学で経済史を学んだとありますから、作中の女子大は東京女子大がモデルなのでしょうか?
彼女はその後1949年に小学館に入社し、「女学生の友」や「マドモアゼル」等の編集に従事しながら歴史小説などを書いたのですが、編集者としても有能であり、「白いタートルネックのセーターに黒のタイトスカート姿で、夜遅くまで仕事をする彼女は若い男性社員の憧れの的であった。」とのコメントもありました。1970年代どころか1950年代にあって女性の社会進出の最先端に立っていた人なんですね。

 

途中甘いラブロマンスに流れて行きそうな気もしてちょっと興ざめしかけたのですが、そんな安易な設定ではなく、最後まで興味深く読むことができました。
作者の生きざまを反映してか、お嬢様で、現在の感覚では生ぬるいとも思える主人公の考え方・生き方が、古代の女性たちが自らの痕跡を歴史に刻んだことを知るようになって徐々に変わり始め、自らの人生を自らの力で選び取ろうとするようになります。そこが時代を超えて共鳴を生むところでしょうし、この小説が万葉集や古代史に興味を持つきっかけになったという声も多いようです。

 

 

 

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