先日松本大洋の「Sunny」を読んだのですが、今回は「ルーヴルの猫」と「東京ヒゴロ」の二作品です。今回については少し筆がすべっていますので、まだ読んでなくて読みたいと思っている方にはネタバレ注意です。
「ルーヴルの猫」は、フランス・パリのルーヴル美術館を舞台に、屋根裏に棲む猫たちと人間たちの交流を描いた幻想的な物語です。Sunnyとは全く趣の違う作品で、ガイドのセシルが館内で白猫を目撃したことから、絵の中に消えた少女の謎を追う展開となります。そして夜警のマルセルは、50年前に失踪した姉が絵の中に入ったと信じていて、猫たちとともに絵画の世界を巡る旅が始まります。猫たちは擬人化され、絵画の中の楽園と現実世界の対比が物語の核となっています。
読んだ後は、夢と現実が混ざり込むような不思議な感じになりました。絵画の中の世界は永遠の春であり、死も苦しみもない理想郷として描かれるのですが、主人公たちは最終的に現実へと戻る選択をします。芸術とは逃避ではなく、現実を生きる力を与えるものだというメッセージが込められているみたいで、松本大洋の描くルーヴルはそれ自体がまるで生き物のようです。読者は猫たちとともに夜の美術館を歩く体験をしますから、少し映画「ナイトミュージアム」的なところもあり、夜になるとおもちゃたちが命を持つ「トイストーリー」とも通じるところがあります。
ただ、このテーマは私には少し難解で、正直SUNNYのほうが取っ付きやすいと感じました。
そして続いて読んだ「東京ヒゴロ」は、大手出版社を早期退職した漫画編集者・塩澤が、理想の漫画雑誌を作るために奔走する物語です。彼はかつて担当していた漫画家や若手作家たちに声をかけ、商業主義に染まらない「本物の漫画」を追求するのですが、登場人物たちはそれぞれ漫画に対する情熱や葛藤を抱えており、仕事や表現・友情などの間で揺れ動きます。松本大洋が初めて漫画家の世界を描いた作品なのだそうで、彼自身の創作の哲学が随所に込められているように感じました。
漫画という表現手段をこよなく愛する主人公を通して、漫画に対する敬意とか、創作に伴う孤独や苦悩がリアルに描かれています。特に、ある若手漫画家の繊細さや攻撃性などはとても印象的で、いわゆる破滅型作家の自意識と社会との摩擦を見ることが出来ます。
漫画業界への批判的な表現もかなり含まれていますが、最終的には登場人物の苦悩や葛藤を理解し応援する温かさがあり、度重なる挫折を乗り越えて挑戦していく主人公から、まだまだ自分も頑張らねばと感じる読者は多いでしょう。
ルーヴルの猫が哲学的・幻想的なのに対して、こちらは現実世界で「生きる」ということを描いており、つきつめればやはり哲学的ともいえるのかも知れませんが、大人のための漫画作品として心に残りました。
私自身も、ルーヴルの猫よりはこちらの作品の方がより感情移入出来ました。哲学という形而上の世界より、具体的・ 現実的な世界の方がやはりとっつきやすいです。

