関西・北陸の桜旅から帰り、3日後にはまた東北の桜を訪ねる旅に出て、今はその最中なのですが、以前から書き溜めた記事が数本ありますので、先にそれをアップします。
少し前のことですが、筆ペン(Brush pen)がオックスフォード英語辞典(OED)に登録されたというニュースを目にしました。近年の日本語由来語の追加が相次ぐ流れの中での出来事として紹介されていましたが、ウォシュレットのように海外でも広く知られている製品ならともかく、筆ペンまでOEDに登録されるほど欧米で使われているのかと、正直意外に感じました。筆ペンは日本では慶弔用の筆記具として定着していますが、欧米での使用場面がすぐには思い浮かばず、どういう経緯でここまで認知されるようになったのか興味が湧いたのです。
今回の改訂では、筆ペンは「インクカートリッジを備えた現代的な筆ペン」と定義され、日本発の文具として国際的に認められた形になっています。同じ改訂でウォシュレットも採用されていますので、やはり日本の生活用品や文具が世界標準の語彙として扱われる傾向は強まっているようです。OEDによれば、英語には500語以上の日本語由来語が記録されていて、特に近代以降に急増しているとのことで、アニメや食文化だけでなく、文具や生活用品まで含めて日本の製品が英語圏で日常的に使われるようになっていることが背景にあるようです。
日本語由来語の歴史をたどると、最古の例は16世紀の旅行記に登場する「坊主(bonze)」や「公家(kuge)」で、江戸期には食文化や武家文化に関する語が入り、19世紀後半には黒船来航以降の交流拡大で急増し、20世紀以降はアニメやマンガ、カラオケ、ラーメンなど文化・生活領域の語が大量に追加されてきました。最近ではウォシュレットや筆ペンのように、日本の工業製品が採用される段階に入っているようで、時代ごとに英語が取り込む日本語の種類が変わってきたことがわかります。
とはいえ、筆ペンが欧米でどのように使われているのかは、日本にいるとあまり実感がありません。調べてみると、筆ペンが広く認知されるようになった背景には、欧米でのモダンカリグラフィー(自由度の高い現代的な西洋書道)の流行が大きく関係しているようで、2010年代以降、手書き文字のデザインがSNSを通じて広まり、筆ペンは「手軽に線の強弱が出せる道具」として人気を集めたとのことです。インスタグラムなどには筆ペンを使った動画が大量に投稿され、市場規模も拡大しているそうで、こうした動きは日本ではあまり見えませんが、欧米では一つの大きな潮流になっているようです。
また、アートやイラストの分野でも筆ペンは「筆とペンの中間にある便利な道具」として扱われ、細い線から太い線まで一筆で描けることや、インクが安定していて扱いやすいこと、携帯性が高いことなどが評価されているようです。教育やホビーの分野でも、初心者でも扱いやすい筆記具として採用されているとのことで、学校やワークショップでのアート活動が盛んな欧米では、こうした需要が筆ペンの普及を後押ししているようです。さらに、日本製文具への信頼も根強く、トンボ、ぺんてる、呉竹といった日本メーカーの筆ペンはアーティストの標準ツールとして定着しているとのことで、日本の文具が海外で高く評価されているのを改めて感じました。
筆ペンは日本では慶弔用の筆記具という印象が強いですが、欧米ではアートやデザインの現場で実用品として根付いているという点が、日本側からは少し想像しにくいのかもしれません。慶弔筆ペンではなく、下の製品のようなカラー筆ペンのイメージなんですね。
筆記具の歴史を振り返ると、サジペン(筆記体の英語を書く時使ってました。)や竹軸ガラスペン(硬筆習字というもので使ってました。)に代表されるつけペンが明治から昭和にかけて実用筆記の中心にあり、その後万年筆やボールペンに取って代わられましたが、筆ペンは筆の進化版として登場し、今では日本でも一定の地位を占めています。欧米では筆文化がないため、筆ペンがどのように受け入れられているのか不思議に思っていましたが、アートツールとしての利便性が評価されているという説明を聞くと、なるほどと思うところがあります。



