公開初日、帚木蓬生原作の閉鎖病棟を見て来ました。正式には「閉鎖病棟 それぞれの朝」です。
原作はかなり前に読んでいて、前回太宰治の「人間失格」のときにこの映画の予告を見て、是非見たいと思っていました。120分弱という時間の制約もあってか、原作に比べて背景説明や掘り下げがやや物足りないことと、物語の設定や演出に独自の変更があるのは確かですが、原作のイメージには忠実に作られていたと思います。笑福亭鶴瓶も綾野剛も小松菜奈も良かったです。
また精神病院(原作ではそうなっていますが、最近では差別的響きがあるという事なのか精神科病院というのが正式だそうです)が舞台ということもあり、ユーモラスな表現にしてもシリアスな表現にしても難しさがあるなあと感じました。
私は原作から入ったのでどうしても比較してしまいますが、そうでない人には十分楽しめる演出だと思います。しかし原作のダイジェスト版的になっているのは確かですので、順番としては映画で興味を持ったら次は原作、というのが一番良いように思います。
たとえ開放病棟であっても、実は社会から拒絶された閉鎖病棟なんだ、というのがこの題名の意味であり、原作は精神科医ならではの病気に対する深い理解をベースに、一人一人の登場人物のおかれた環境の深刻さやその背景、差別や偏見に満ちた社会の暗い部分にまで踏み込んでいる重厚な作品です。しかも最後には希望を感じられるところが素晴らしいと思います。
あと映画では鶴瓶が主役の扱いですが、原作では綾野剛が演じる登場人物が主役となっています。
帚木蓬生は、東大仏文科を卒業したのち、TBSに勤務しましたが、すぐ九大医学部に入りなおし、精神科医との2足の草鞋を履く異色の作家です。源氏物語の好きな方はすぐお判りでしょうが、ペンネームは「帚木」も「蓬生」もどちらも源氏物語からとられています。医者ならではの医療系作品が多いですが、それに限らず幅広いジャンルの作品があり、私はどれも好きで読み漁ってました。
また鶴瓶の方はNHKの「家族に乾杯」などで、するりと人の懐に入ってしまう、不思議な魅力を見せていますが、この作品ではとてもシリアスな役どころを好演しています。以前吉永小百合の弟役をやったときも高評価でしたね。
昔、出張帰りの伊丹空港で鶴瓶と遭遇したことがあります。まだ喫煙者が今ほど片隅に追いやられていない時代で、出発ロビーの結構真ん中あたりに喫煙ブースがありました。焼肉屋のような煙吸引の仕組みこそありましたが、ガラス等で仕切られている訳でもなく、そこにいつにない人だかりと楽しそうな笑い声がしていました。私もまだ喫煙者だったので、煙草をくわえて近付いてみると、人の輪の中心には鶴瓶が。まだ今のようにM字に禿げあがってなくてアフロヘアだったかも知れませんが、まわりのおっちゃん達を何の屈託もなく笑わせながら、自分も人懐っこい笑顔で楽しそうにタバコを吸ってました。それ以来好感を持って見ていましたが、今に始まったものではなく天性のものなんでしょうね。