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帚木蓬生著「ソルハ」を読みました。

 

「守教」に続いて帚木蓬生の「ソルハ」という小説を読みました。「ソルハ」とはアフガニスタンの言語のひとつダリ語で「平和」という意味です。文中でも重要な場面で出てきますが、描かれているのは「ソルハ」にはほど遠いタリバン政権下のアフガニスタンです。

 

 

この作品は実は児童書なのだそうで、文体は平易でとても読みやすいですが、大人にとっても十分面白いです。それに読みやすいからと言って軽いかと言えばそうではなく、テーマはとても重く読み応えがあります。

 

この作品は、帚木蓬生の遺言三部作と呼ばれるものの中の一作です。遺言三部作とは帚木蓬生が白血病に侵され、死を覚悟して書いた作品のことで、「水神」「ソルハ」そして「軍医たちの黙示録」と題され、「蠅の帝国」「蛍の航跡」の2冊にまとめられたもので構成されます。帚木蓬生が白血病から回復したことは知っていましたし、他の2作も読んではいたのですが、遺言三部作というのは今回初めて知りました。
そしてこの「ソルハ」は彼が闘病のさ中に書いたもので、1990年代タリバン政権下でのアフガニスタンで成長する「ビビ」という少女が主人公です。

 

 

アルカイダと並んで、非イスラム圏からはイスラム原理主義の代表のように呼ばれ、同時多発テロ後アメリカにより政権崩壊させられたタリバンは、厳格なイスラム主義に基づく政治を実行し、服装を厳しく規制したり、音楽や写真、娯楽を禁じたりしました。女子教育も禁止し、主人公のビビはその被害者なのですが、実はタリバンという名前は学生を意味する言葉であり、ソ連のアフガン侵攻、そしてその後の国内闘争を戦った学生たちから始まった組織だというのは何とも皮肉な話です。

 

この話は、2002年にタリバン政権が崩壊し、将来に明るい光が見え始めたところで終わりますが、イスラム国(ISIS)のように更に過激な集団が表れてみると、タリバンは次善の存在とみなされる事になったのか、一度はアメリカに追われた政権を取り戻しています。前回政権時の批判を意識してか当初は人権保護等をうたっていましたが、早くも女性の人権制限を再開しています。

 

私なんかのように無宗教な人間がうかつに宗教を語るのは危険と思うのですが、私の宗教にたいするイメージは単純に「平和」、まさに「ソルハ」なのです。しかしキリスト教とイスラム教の長い闘いの歴史を見ても、それはあまりに能天気な話のようです。
仏教は、数ある宗教の中では比較的穏健というイメージはありますが、やはり帚木蓬生の著作である「襲来」では、元寇を予言した日蓮が腐敗した仏教他宗派を痛烈に批判したことで命を狙われ、弟子が殺害される場面が登場しますし、前回読んだ「守教」ではキリシタンたちが仏教勢力から激しく排斥されます。

 

ビビたちは砲弾の飛び交う中を生き延びてタリバンからの解放を迎えたのですが、日本人だって70数年前には明日の命さえわからない中で生活していたはずです。しかしそれは既に二世代以上前の話であり、遠い世界の話となっています。「ソルハ」が当然と思わない心構えは常に必要ですね。

 

 

 

 

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