我が家にはもう誰も触れることがなくなった電子ピアノがありました。普通のピアノ、ましてグランドピアノ程場所を取るものではありませんが、それでも狭い我が家にとっては邪魔な存在です。
これは幼い頃ピアノを習っていた娘が使っていたものなのですが、小学生までを対象とした子供ピアノ教室でしたから小学校卒業と同時にそれは終わり、その後も弾くことはありませんでした。ピアノのレッスンは娘にとってはそんなに興味のあるものではなかったようです。
電子ピアノは文字通り電気的にピアノの音を出す楽器ですが、本来のピアノ(アコースティックピアノ、生ピアノなどとも呼ばれるそうです。)は、構造的には弦が振動して音を出すために弦楽器に含まれ、奏法的には鍵盤を押すとハンマーが弦を「叩いて」音を出すために打楽器ともされるのだそうです。単純に鍵盤楽器と言い切れるものでもないのですね。ちなみにオルガンは、鍵盤を押すと空気がパイプに送られ、空気柱の振動で音が出るので管楽器なんだとか。また教会のパイプオルガンなどは演奏者が直接ペダルで空気を送るのではなく、「ふいご」をふいご係が人力で操作して「風箱」に空気を送っていたんだそうです。今では殆どが電動送風機(ブロワー)らしいですが。
その後中学からバンド活動を始めた息子が、自分の担当楽器はベースだったのですが、ギターやドラム、ピアノなど楽器全般にも興味を持ち始め、たまにポロポロと弾いて見たりはしていました。彼が家を出た5年前にも、誰も使わないのなら持って行きたいと言っていたのですが、部屋が狭くて置き場所を確保できずに断念していたのです。
それが今回少し広い部屋に引っ越すこととなり置き場所も確保したので持って行く、ということになりました。我が家としても単なる飾り台としてしか機能しておらず邪魔でしたし、かといってまだ十分使えるものを捨てるのも忍びない、売却するにもさほど高額とは思えず手間ばかりがかかりそう、ということでズルズルとそのままにしてきたものですから、使ってくれるなら有難いです。それに娘が使っていたものをそんなに邪険にしたくもありませんでしたし、ピアノ自身にも可哀そうという気もありました。
ということで、都内の彼の新居にピアノを運ぶことになったのですが、業者に頼むと都内近郊で1万円前後は取られそうでしたから、自前でHIACEを使って運ぶことにしました。元々商用車でこの手の用途にはもってこいの箱バンなのですが、私のHIACEは後部にベッドキットを組んだ車中泊仕様で、更に10cm厚のマットを敷いていますので、天井までの室内高は80cm程度しかなく、電子ピアノをそのまま立てて運ぶことはできません。説明書を読むと、鍵盤部分は横にしないでと書いてありましたので、分解して何とかHIACEの後部に積み、息子と妻の3人で新居に向かいました。固いクッションのHIACEですから振動は心配でしたが、その点ではぶ厚いマットが役に立ち、上からは掛布団で覆っておきましたので傷つく心配もなく、車中泊仕様なのが幸いしました。
積み下ろしはかなり大変でしたから、意外と重い鍵盤部の運搬には台車を使いました。水平を保つことはできませんでしたが、それ位は大丈夫でしょう。新居は下町の賑やかな商店街に面した賃貸マンションで、HIACEを横付けにはできませんでしたから、台車を持って行っていて良かったです。妻と三人がかりで台車で鍵盤を運んでいる姿は珍しかったと思います。
室内では一足先に入居していた息子の彼女が出迎えてくれ、息子の個室に運んで組み立てたら設置完了です。初めて彼らの新居に行きましたが、下町の活気が感じられる住みやすそうな街でした。