8月最初の月曜日はとても暑い日でしたが、銀座の歌舞伎座で上演が始まったばかりの「八月納涼歌舞伎」を観に行って来ました。半年前の1月には浅草公会堂で「新春浅草歌舞伎」を見ているのですが、映画「国宝」で歌舞伎熱が再燃したのは間違いありません。
今回は大人の休日倶楽部の幕間弁当付きプランで、以前もこのプランで歌舞伎座に行ったことがあるのですが、その時は午前11時に開演となる第一部でしたから、まさに幕間に食べる幕の内弁当でした。そして今回は午後2時過ぎ開演の第二部で、開演前に先に食べる形だったのですが、そもそも幕の内弁当は、幕間に食べるからという説と、役者が幕の裏側(幕の内)で食べるからという説があるのだそうで、ならば幕間にこだわる必要もありませんね。
都営地下鉄浅草線の東銀座駅で降りて歌舞伎座直結の通路を進めば、歌舞伎座地下二階の木挽町広場です。歌舞伎関連のグッズやお土産などが売られていて、観劇気分を盛り上げてくれますし、観光だけで立ち寄る方も多く訪れています。この日も沢山の外国人観光客で賑わっていました。
まずはここから食事会場に向かい、食後カフェで一服したら一旦地上に出て歌舞伎座に入ります。平日の昼間ですから男性は私のような隠居老人が殆どですが、女性は若い人から中年・老年まで広い年代層の方が居ます。
第二部の演目は、「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」と「火の鳥」です。
日本振袖始は、日本神話の「八岐大蛇(やまたのおろち)退治」を題材にした近松門左衛門の浄瑠璃作品を原作として坂東玉三郎が監修したもので、八岐大蛇とその化身である岩長姫は長くこの坂東玉三郎が演じて来たものです。今回初役として中村七之助がこれに挑んだのですが、妖艶な岩長姫を見事に演じていたと思います。まあ人間国宝である坂東玉三郎の後を継ぐのは大変なプレッシャーでしょうが、彼も名門の御曹司ですからその覚悟はできているのでしょう。
ちなみに五代目である現在の玉三郎は歌舞伎界の出身ではなく、養子として芸を継いで女形としての美学を極めて来た人です。その経歴などから、映画「国宝」で吉沢亮が演じた喜久雄のモデルでは?と言われているのだそうです。
次の火の鳥は新作歌舞伎で、タイトルからして手塚治虫の作品だと思っていたのですが、そうではなく世界各国に伝わる火の鳥伝説(フェニックス、鳳凰、朱雀など)をモチーフに構成されたものでした。
黄金のリンゴや火の鳥を求める旅という設定にはロシア民話的な要素が、そして海彦・山彦という王子たちの設定には日本の民話的な要素もあり、舞台は「どこの国・どの時代かは明確ではない王国」とされています。
火の鳥を演じる玉三郎はさすが人間国宝の安定感だったのですが、新作歌舞伎であり俳優以外が語る部分を担う「竹本(たけもと)」が不在の為、玉三郎の一人語りがとても多くなります。正直それが私にはかなり冗長に感じられ、歌舞伎での竹本の存在価値を再認識することになりました。
竹本とは、義太夫節を語る太夫(たゆう)と三味線方で構成され、語り手(太夫)が登場人物の心情や場面の状況を語り、三味線方が音楽で情景や感情を支えます。竹本が俳優が台詞を話す部分とは別に、物語の進行や心理描写を補完する重要な役割を担っているのだということを実感したという訳です。