シニアライダーの日常・R1200Rと共に

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吉田修一「パーク・ライフ」を読みました。

 

映画「国宝」を観て以来、原作者である吉田修一の小説に嵌っているのですが、その3作目は、彼が第127回の芥川賞(2002年上半期)を受賞した「パーク・ライフ」です。

 

 

「パーク・ライフ」のパークとは、東京の日比谷公園のことであり、この作品はここを舞台にした静かな物語です。都市に生きる人々の希薄な関係性や、日常の中にある微かな感情の揺らぎを描いていて、受賞当時から「現代の都会生活(ライフ)の光景を鮮やかに浮かび上がらせた」と高く評価される一方で、「ドラマ性の乏しさ」も指摘され、賛否が分かれたのだそうです。

 

日比谷公園に行ったことのある方はわかると思いますが、一歩中に足を踏み入れると、周囲の喧騒が嘘のような静けさがあって、ここが東京駅からもほど近い大都会東京のど真ん中とは思えなくなります。
まさに都会のオアシスであり、ここを舞台に、他者との偶然のふれあいを描いているのですが、主人公とある女性との出会いなどは、「横道世之介」にも通ずる何気ない日常の中のほんの一コマです。  
この作品は、村田沙耶香の「コンビニ人間」や、村上春樹の「海辺のカフカ」との類似点も指摘されているそうで、確かに「コンビニ人間」が描く、都会の孤独と「普通」への違和感、 簡素でわかりやすい文体などは似通っているかもと思ったのですが、「海辺のカフカ」は読んでいませんので語ることはできません。村上春樹はあまり得意では無いのです。

 

 

主人公と女性との関係は、恋愛とも友情とも言い切れない微妙な距離感ですが、その曖昧さこそが、現代の都会で暮らす人々の関係を表しているように思えますし、繰り返し登場する「人体模型」や「鍾乳洞」の描写は、人工と自然とか、外側と内側とか、表層と深層といった対比を象徴しているようです。
上にも書いた通り、吉田修一の文体は軽やかで登場人物の心理描写も抑え気味ですし、文庫版なら180ページ弱しかない短編です。それに小説の構成自体が劇的な展開を見せるものでもありませんから、そういった盛り上がり要素を求める人には物足りなく感じるかも知れません。
実は私もそうであり、読み終えるのにかなり苦労したのですが、もう芥川賞のような純文学について深く考察したりするのはしんどくて、肩肘張らない大衆文学のほうが好きになって来ているのは間違いありません。

 

ただ、過去何度か訪れたことのある日比谷公園のことはかなり鮮明に思い出すことが出来ましたし、今度行くなら、何の目的もなくベンチでただぼーっと過ごしてみたり、周囲の人たちをそれとなく観察してみたりするのも良いかなと、そんな気にはさせてもらいました。

 

 

 

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